月別アーカイブ: 2014年9月

座右の書

私の鞄は、随分と重いのだそうです。

大したものは入っていません。

小さな手帳に、中味の淋しい財布、歯ブラシセットにデンタルフロス、そして本くらいなものです。

本は三冊。

一冊は、現在読みかけのもの。

そして後の二冊は、保母須弥也先生の咬合学事典と、小倉久米雄著の日本料理の達人心得帳です。

故 保母須弥也先生の名を歯科医ならば知らぬ人は居ないでしょう。

私は先生の著作のこの事典を、徒然なるままに眼を通すのが好きです。

もはや古典かもしれません。

しかし、治療の根本は時代を経ても変えてはならないと私は思っています。

小倉久米雄氏は、赤坂の懐石 味楽の店主であり、調理師の社会的地位の向上に尽力され、現代の名工、黄綬褒章を授章された
日本料理界の第一人者です。

多く著作を遺されていらっしゃいますが、この本は私の魂を揺さぶり、離すことが出来なくなってしまった名著です。

いつに読んでも、どの頁を開いても、心打つ名著です。

どの道に於いても、心得は同じでありましょう。

プロと素人の間には、大きな壁が在ることを再認識され、プロフェッショナル故にますます精進せねばと思い起こさせてくれる一冊です。

この季節を迎えると

毎年恒例となった日本歯科大学の一年生への特別講義が近づく季節が来ると、
専門書以外の本を読み漁るのが、これもまた恒例行事となりました。

歯科以外の職業との共通点を探すためです。

如何なる職業であっても、その道に没頭する人には、ある種の共通の匂いがあります。

刀鍛冶であったり、料理人、大工、書道家等などです。

縁が在って、ある職業に就いて、仕事とのかかわり合いと云うのは結局の処、
その人の心がけひとつに在ると言えましょう。

18歳の青年たちが、歯科の門を叩いて今後の6年間で、歯科の初歩を学ぶに際し、
恐らくアッチへ行ったりコッチヘ行ったり、
迷いや、悩み、苦しみ、戸惑いに自分を決して見失うことのないようにと、
どの道に於いても、結局は覚悟一つなんだ!と感じて貰いたいと願って、
色々なジャンルの仕事人の話を織り混ぜて、私の講義は構成されています。

学生への講義なのですが、病院の若い先生方も混ざって聴きに来られて下さっているのは、
皆がそれぞれに迷って、道を求めているのでしょう。

若い母校の歯科医師たちのために、やせ我慢でも、凛とした私であり続けていくのが先人としての私の務めだと思っています。

私の選択

突然の激しい雨に、驚いて窓から天を仰ぎ観てしまいました。

しばらくすると、何事もなかったかの様な空模様。

一時のお天気でさえ、この通りなのですから
人が長い人生を送る間には様々な空模様が在るのは当たり前の事かもしれません。

目の前に二つの道が在ったときに私は、辛んどい道をある時から好んで選ぶ様になりました。

その道を選んだからと言って、良い結果が得られる保証は当然のことながらありません。

但し、経験的にと云うよりも、安易な道を選ぶ自分に後ろめたい気持ちを味わいたくないために、ただそれだけの理由です。

私の選択の正誤は、当の本人たる私には判りません。

道なきに近い道を、これからも私は歩いていくでしょう。

この頃の私

この不景気な時代にありがたい事に、また新しい患者さんがお越しになられました。

これまで通っていた歯医者さんに随分とご不満をお持ちのようでしたが。

こう言う場合には、私は悪いお話しは遮る様に心がけています。

ー もう良いじゃないですか!これから善くしましょうね! ー

と、お話しを中断させて頂いて、検査をお願いしています。

そんな私に患者さんは、拍子抜けする様です。

よく患者さんと雑談に興じる私ですが、前医や他の歯科医の批判は慎む姿勢は紳士のタシナミであると思っています。

このブログを書いている間に、お一人インプラントの手術を終えました。

数ヵ月前に、オトガイから骨を移植した症例です。

確りと十分に分厚い骨が形成されていました。

あまりにも綺麗な骨の形と色艶に、嬉しさ堪らずに、
手術中の患者さんに手鏡で見て頂きました!

ビックリ眼でご覧になっておられましたが、大事に使おうね!の私の一言に
頷き眼で返事を返され、心暖まる気持ちとなりました。

私は、例えば私生活においても、不愉快な出来事があっても、不思議と仕事には全く影響がなくなりました。

ですから寧ろ、患者さんを診察できない、休日なり祭日が忌々しくてなりません。

やはり歳ですから、自分の身体を休める事も必要ですが、ヤッパリ仕事をしている時が一番ですね!

お医者の悩み

新潟市でご開業の高橋弘尚博士と長い間、電話で話し込んでいました。

高橋先生は、私と同門です。

日本歯科大学の4年先輩で、大学卒業の後、大学院へ進まれ歯科保存学を専攻されました。

御専門は、象牙質を傷めることなく削った歯の表面から如何にして感染細菌を取り除くのか!という繊細なテーマで、
コツコツと研究室で深夜までご研究されておられた事を今でも鮮明に覚えています。

先生はその後、保存学講座の講師へと昇進され、その頃に私も保存学の大学院へと進みましたので、
私は先生の後を追いかけたと言って良いと思います。

先生とは海外出張も御一緒させて頂きました。

ですから先生は、私の18の歳から現在までを知る貴重な私の戦友であります。

先生とは、現在に於いても同じ保存学講座の非常勤講師として御一緒させて頂いています。

私の診療所の現状をよく理解されて居られる先生から、興味深い言葉を頂きました。

ー 歯科の治療に不満を持たれて居られる患者さんの共通点って何なの? ー 

???

ー 君んとこは、そう言う患者さんがイヨイヨとなって行くところなんだから! ー

歯科の治療に不満を持たれて居られる患者さんは、とても多いと感じています。

但し、不満と言われても様々で‥。

治療費用が高いとか、でもこれは私ではどうにも出来ないことですし、安い歯医者が良い歯医者なら、私は恐らく悪い歯医者でしょう!

結局の処、ヤッパリ歯医者は確かな技術だと思います。

そうは言っても、私にも上手くいかない症例もあります。

だってそうでしょう!

する症例全てが成功!って医者が居ると思いますか?

上手くいかない症例は、どうするの?って聞かれたら、
私は患者さんに正直に現状を伝えています。

だって私は神様ではありませんから。

それで、上手く現状を改善するためには、どの様に考えているのか!何が必要か!を明確に伝えます。

ですから私は、対患者さんに対しては難しく考えていません。

私たち医者が考えて考え抜かなくてはならない事は、あくまでも治療に関してだと思っています。

更に良い結果を得るにはどうするか!

私は毎日これにつきます。

人の身体は千差万別!

知恵を尽くしても尽くし足りない!のが現状です。

歯科不信の気持ちが強すぎて、凄まじいほどの患者さんもお越しになられますが、
私は特に意識していません。

あくまでも普通に接して、心を開いて下さる患者さんなら、アア良かった!で。

どの様にしても疑うばかりでダメな方は治療になりませんから、私は無理強いはしないアッサリした対応を採っています。

患者さんを悪い様にしたいと思っている医者など絶対におりませんし、
確かに医者によっての診断なり技術の差は大きいですが、少なくても私は変に思われるような不満の対象として観られたくないので、
本当にアッサリと、転医をお奨めしています。

お互い人間の生きた営みですから。

その様な話を、高橋先生にお伝えしたら、

ー そうなんだよねぇ! ー

と、妙に納得されて居られたのが可笑しかったです。

医者もみんな、悩んでるんですよ!

素晴らしい仕事.歯科治療

私は数年前から、母校である日本歯科大学一年生の特別講義を担当しています。

私が学生であった頃とは随分とカリキュラムが変わってしまい、時代の流れを実感せざるを得ません。

通常、教養過程である一年生の授業項目の中に今はプロフェッションと云う目新しい物があります。

これは歯科医と云う仕事の意義を、改めて学生諸君に見いだして貰い、これからの学生生活を有意義なものにと云う狙いが在るのかもしれません。

本当に時代は変わったものです。

毎年、私は【素晴らしい仕事.歯科治療】と云うタイトルでお話しさせて頂いています。

私が歯科の世界を志した頃から、ヤンチャの限りを尽くした学生時代、新人歯科医時代から今に到るまでの私の半生を
そのまま正直に学生諸君にお話しさせて頂いています。

歯科に取りつかれての30数年でした。

無我夢中に走り続けて来たように思います。

青春坂を掛け登るように、今も未だその最中です。

私は自分を職人だと思って過ごして来ました。

生涯、歯の職人でありたいと願っています。

良い治療を患者さんへ!だけで今に至っています。

ですから、難しい理屈は判りません。

但し、歯のオタクであり続けていたいの気持ちだけで今に至っています。

歯科を志して同門に学ぶ若い人たちが、どうか良い歯科医になってくれます様にと
本当に心から願っています。

人の有り様!

この頃の私が、人の有り様についての記述が多いことに気づいて居られる方は、正によく私の心に近い方だと思います。

不景気であることだけが、セチガナイ状況の原因だとは思いません。

美徳ある、心のある日本人であることの誇りを忘れてしまって、此の国の将来はあるのでしょうか?

ホテルオークラの総料理長であった故 小野正吉氏は興味深い言葉を仰られていました。

ー セーヌ河のように滔々と流れるフランス文化。それに対して鬱蒼とした森の奥にひっそりと潜む底なし沼のような日本文化。
   惜しいのは、グローバル化によって独自の日本文化は博物館入りになりかねない! ー

芸に打ち込む人間は、技術に振り回されてはなりません。

技術は、単にひとつの方略でしかありません。

自己を純化してこそ初めて、芸に向かい合えるものです。

我が国におけるフランス料理を、ひとつの文化にまで育てあげた氏の此の言葉は的を得た言葉でありましょう。

どの道に於いても、プロと素人の差は、その専門領域のみならず、物事に対する考え方ひとつについても
大きな隔たりがあることは否めない事実です。

道を歩いていても、電車に乗っていても、アレッ?と感じる機会がありませんか?

外出が億劫な私が、尚更、億劫になる今日この頃です。

新しいホームページ

現在、新しいホームページをもっか制作中です!

これは私の患者さんの手に依るものです。

実際に私の治療を受けた患者さんだからこそ!面白いホームページが出来ると期待しています。

ー 先生、制作に際してのリクエストはありますか? ー

全くありません!

お好きになさって下さい!

但し、患者さんのプライバシーだけは十分にご配慮ください!
呉々も、患者さんのお名前、お顔、患者さんの声、などといった品の無い項目はご勘弁願います!

医療機関に於いて、患者さんのプライバシーは徹底的に守るのは当たり前の当たり前の話です。

後の事は、制作者の言われるがままに。

私は人に物事をお願いしたときには、彼是と注文をつけない事を信条としています。

委せて、結果の責任は私がとる主義です。

みんなにはノビノビと、結果など気にしなくて仕事に専念して頂きたいと思います。

11月にアップできる模様です!

病気はついででは治らない!

この様な四国と云うへんぴな田舎街まで、ワザワザ歯の治療のためにお越しに来られるからには、何らかの訳が在るのだと思います。

業界用語で云う処の、面倒な患者さんの多い私の診療所です。

しかしながら当の私は、毎日診察している患者さんを、ごくごく普通の方ばかりと認識しています。

ご自身の健康に関心が高いのは、医者としてありがたい患者さんではありませんか?

私は、ハッキリと治せるものは治せる!治せないものは治せない!とお伝えする考えです。

但し、ダメと云う前に、ベストは尽くします。

悲しいかな、それでも力及ばず、病気に負けることも、少なからず在ります。

隠さずに患者さんに正直に、現状と将来的な予測をお伝えし、また患者さんの側も病状と直面し、
共に考えて、次の手をうつのが、治療の有り様だと考えています。

歯科恐怖症、歯科の治療に対する不信感の強い患者さんに対しては、
何故その様に至ったのかを、さかのぼって探す手順を踏まないと、
治療は上手く運びません。

私は患者さんの前では、決して飾らない様に心がけています。

治療に関する文献を絶えず眼を通すのは、医者として当たり前の話です。

それよりも、心理学、人間学の書物にも、気を配るのは人を観る臨床家の責務であります。

病を観て、人を観ずという医者にはなりたくありません。

最近では、悲しいかな、お金を出すから治して下さいと云う心をあからさまに出される方、
治療の途中から、とかく費用の事ばかり注文を付けられる方が、時に見られます。

とても悲しい気持ちになります。

一生懸命に治療して下さい!と云う患者さんに支えられて私の診療所は今に在ります。

歯科の治療等は、どこで治療を受けても同じだと思って居られる患者さんに、
私は心を、情熱を向ける事が出来ません。

今は歯科医は巷に溢れかえっているほどに沢山あるのですから、
他の医院へと早々に、転医される事を明確にお奨めしています。

私はお金儲けで、歯科の仕事をしている訳ではありません。

歯で困って居られる方のためのユートピアを創りたいと誓って、臨床家になりました。

そのための苦労は、どのようにしてでも耐えて、良い治療を提供したいと誓います。

病気はついででは治らないと云う言葉は、正に的を得た言葉でありましょう!

父という病

今日のブログのタイトルである【父という病】と云う本を一気呵成に読みました。

著者である岡田尊司氏は、私よりも3つ年上の香川県出身の方でした。

経歴は東京大学哲学科中退の後、京都大学医学部卒業、同大大学院修了と云う氏であります。

理路整然とした構成で、興味深く読ませて頂きました。

子供を育てる環境に於いて、母親の役割がとても大きく影響する事に異論を唱える人は居ないでしょう。

ぜひに世の女性に、この本を読んで頂きたいと思いました。

強すぎる母性‥‥。

父権の存在が怪しい今日この頃です。

久方降りに、理論だての良い本でした。