座右の書


私の鞄は、随分と重いのだそうです。

大したものは入っていません。

小さな手帳に、中味の淋しい財布、歯ブラシセットにデンタルフロス、そして本くらいなものです。

本は三冊。

一冊は、現在読みかけのもの。

そして後の二冊は、保母須弥也先生の咬合学事典と、小倉久米雄著の日本料理の達人心得帳です。

故 保母須弥也先生の名を歯科医ならば知らぬ人は居ないでしょう。

私は先生の著作のこの事典を、徒然なるままに眼を通すのが好きです。

もはや古典かもしれません。

しかし、治療の根本は時代を経ても変えてはならないと私は思っています。

小倉久米雄氏は、赤坂の懐石 味楽の店主であり、調理師の社会的地位の向上に尽力され、現代の名工、黄綬褒章を授章された
日本料理界の第一人者です。

多く著作を遺されていらっしゃいますが、この本は私の魂を揺さぶり、離すことが出来なくなってしまった名著です。

いつに読んでも、どの頁を開いても、心打つ名著です。

どの道に於いても、心得は同じでありましょう。

プロと素人の間には、大きな壁が在ることを再認識され、プロフェッショナル故にますます精進せねばと思い起こさせてくれる一冊です。