肌に冷たい外気のなかにも、
何やら丸みを帯びた温かみを感じるのは、
確かに春が一歩近づいたのでしょう。
と、云っても
まだ屋根を全開にして、
清んだ空を仰ぎながらの通勤をする気にはなれません。
窮屈な車のハンドルを握って、
診療所へと向かっています。
凡そ歯科医師の仕事は、
窮屈なモノです。
患者さんを抱くような姿勢で、
手先だけを細かく動かし、
ルーペとマイクロスコープを使った
強拡大下の狭い視野での作業の連続です。
余暇は文献とのニラメッコ。
この様な数十年を過ごして来ましたので、
趣味を持つ事が恐いのです。
若い時分に先人たちを注意深く観察しました。
ゴルフや盛り場にマメな歯科医師に、
技術的な教わる処はありませんでした。
そんな観察結果から、
私の怠惰な性格より、
私の強い恐怖心が勝ったのだと思います。
そもそも私は恐怖心の強い質です。
小学3年まで水が恐くて泳げませんでした。
水が恐いから、
入浴時の洗髪でさえも、
溺死してはならないと、
カッパ頭のようなビニールのシャンプーハットを
被ってはの毎日でしたモノ。
自分の中でヤバい!と察知する虫が居たんだと思います。
敏感センサー完備の危険信号を持っているのが
私の性格の中心部だと思っています。
この性格は歯科医師と云う仕事柄、
良かったと思っています。
危ない橋は渡らないと云うよりも、
危ない橋を渡る前に、
橋の下を埋めたてて、
橋を鉄骨にて補強を施し、
橋の両端に安全ロープを引いてから、
風の無い日を選んで、
初めて橋を渡ると云う、
そんな治療を心がけていますモノ。