心配り


土曜の夜。

食事会のあと、

師匠がレストランから出るのを

後ろ姿が見えなくなるまで、

直立不動の姿勢で見送り、

さぁ、ホテルで寝るかぁ!

と、

帰宅準備に勤しむ私のコートの袖を引っ張るのは。

師匠の診療所で長年、

歯科衛生士として師匠のキャディを務める田中女史でした。

先生、ズルいぞ!

次、行くぞ!

普段は淑女の見本のような女史は、

虎,

もしくは、

大阪のオバチャンと化していたのです。

このような際に、

私は頼りないのです。

すがるような目で、

吉祥寺開業の小出医師に助けを求める私。

なんせ、

都内のど真ん中。

私は今自分が居る所在さへも知らないのですから。

受付嬢である高井女史は落ち着いた方で、

ご一緒して下さるとの事にて、

私と小出医師は、

師匠のヤンチャを真っ直ぐに引き継いだ

じゃじゃ馬女史にリードされ、

夜の巷へと出でたのです。

青山の上品なビルの細い階段を地下へと下り坂、

上品な戸を開き、

田中女史の店選びの眼力に

騒ぐ本人を他所に、

視る眼があるなと、

見直したのです。

酒も付きだし、肴も、

佳い仕事でした。

こういう佳い店は、

呑む側の気持ちをも変化させてくれます。

内藤先生のスタッフを日頃から

尊敬しつつ、

困った時には皆で助けて下さり、

私が一目置く、

数少ない【歯の仕事人】たちとの時間を

わざわざ作って下さった田中女史には、

その心配りに感謝したのです。

夜が更けるころ、

田中女史の肩を叩いて、

オバチャン、オバチャンと呼んで、

笑っている私が、

其処に居たのです。