恵まれた者


待ち合わせの際には、

其処が初めての場所であれば、

1時間は前に、

勝手知った処であれば、

15分前には、

と云うのが、

青年期に大人の男たちから

躾られて、

身についた習慣となりました。

師匠とご一緒させて頂く際には、

勝手知ったる場所であろうが無かろうが、

1時間前には、

それが弟子の所作だと思っています。

土曜の朝、

講演会場に到着した師匠の笑顔に

私は心が温まります。

おう!

左手をポケットに、

右手を挙げての何時ものスタイルでの挨拶に、

私はお辞儀をしてお迎えさせて頂きます。

これも、

25年の何時もの光景です。

内藤先生と言えばクラッシック.ジャガーやモーガンが有名ですが、

普段の足としてお使いの、

メルセデスのワゴンから大きな荷物を取り出して、

三枝君!

これでどうだい!

気に入ったか?

大工のヨゼフだ。

来年の春、

復活祭の日に洗礼を受ける私は、

クリスチャンネームを先生にお願いしたのです。

描かれた絵は、

イエスキリストのこの世での父、

聖母マリア様の夫である、

大工のヨゼフでした。

先生のご母堂様のご母堂様の描かれた絵です。

画家の血筋を

先生の歯学の中に感じます。

先生の歯学が芸術の域に達している大きな要因だと

日頃から秘かに、

師匠のお祖母様に興味を持っていたのです。

うん。

そうか。

その顔は気に入った顔だな。

これやるよ!

綺麗に手当てして送ります。

で、

名前はヨゼフ。

こっちは歯の大工だからな。

30過ぎた頃から、

何につけ、

暖かい眼差しで、

接して下さった師匠の気持ちに、

ますます佳い歯科医師であろうと、

決意新たに、

もっと、もっと、

励みましょうと、

感極まり、

言葉になりませんでした。