歳から云えば、私は最も熟した年齢にさしかかった、云わば脂ののった臨床医なのでしょう。
ですが、私の自分の仕事の出来に満足していません。
もっと平たく云えば、まだまだ未熟モノと毎日を反省しながら過ごしています。
いったい何時になったら、自分で満足できる治療ができるのだろうと、日々を苦しんでいます。
30にさしかかる頃に、カリフォルニアで開業されていた歯周病専門医であるポール.ソケット先生の鮮やかな手術の数々に接しました。
20年以上経った今でも、先生を凌ぐ手術を観たことはありません。
同じ頃、テキサスのメローニック先生のインプラント手術も素晴らしい芸術でした。
何年か前のニューヨーク大学のターナー先生のインプラント手術も、とてもイイ仕事をされておられましたが、
やはりソケット先生やメローニック先生の手術を凌駕できる歯科医を観たことはありません。
若い時代に、素晴らしい芸術的な仕事に接する機会を得ることは大切である、と云う話をよく耳にします。
本当でしょうか?
却って、苦しむのでは?と、実感しています。
下手くそとしか、何処から観ても、それ以外の表現を見いだせない症例を
多くホームページで観る機会があります。
そのような歯科医を、とてもウラヤマシイと思います。
口の中の環境は、とても苛酷です。
唾液で常に湿っています。
多くの微生物が住み着いています。
酸、アルカリ性と云う正反対の状況変化に対応しなければなりません。
熱い、冷たいに晒されます。
噛む強い力を多方向から受けます。
顎の骨の形は、口の開け方によって微妙に変形します。
まだまだキリがありません。
その口の中で、何十年もの間、十分に耐える仕事の成果を確実に出さねばなりません。
歯科医の仕事は、キツい仕事です。
変な仕事に惚れた私は、阿呆とも言えるでしょう。