昨日は一日中、運転していたせいか未だに身体がフラフラしています。
スタッフの宮田君が気を遣ってくれ、患者さんの診察も控え目にしてくれて助かっています。
大学での講義の後は、久し振りに夜更かししたので、
翌朝は犬が鼻を顔に擦り付けてクンクンと鳴らす事で、ヤット目を覚ます程までに寝入っていました。
散歩を待ちかねていたマリリンを連れて、
今日は何時もよりも少し遠くまで足を延ばして観ようかと、
古町通りを越して、西堀へと向かって鍛小路を抜けていたときに
なんとも香しい匂いに誘われて、通りの小さな店を仰ぎ見たのです。
雰囲気はパリの場末のカフェをイメージした造りなのでしょう。
無学の私には、正確に店の名を読めません。
甘党でもある私は、普段であれば通りを少し行った処に旧くから在る団子屋まで向かう処ですが、
この日は妙に目の前の此の店が気になって、マリリンのリードを道脇の棒に繋いだのです。
で、もう一度、この店を上から下まで仰ぎ観て、
入るか入るまいかを暫く思案していました。
凡そ五十を過ぎたる男たる者が、クレープ屋などに簡単に入れるモノではありません。
この様な店は女子供が入る処と、犬は既にククリツケられているにも拘わらず、
ガラス越しに店の中を伺って、誰も居ないのを確認してヤットの想いで小戸を開いたのです。
若い様な、そうでもない様な女性が二人で商いしているのでしょう。
一人が接客を、そしてもう一人がクレープを焼いている
人が十人も入れば一杯に溢れかえる程の小さな店です。
壁の一角に旧い洋画をお映し出し、其れを気にしながらメニュウへと目を通して安堵したる私です。
ギャレット.コンプラッテって云うのでしょうか?
接客の女性に甘くないクレープと珈琲を注文し、ガラス越しにマリリンの此方に来たいかの眼と見つめあいながら、
その時に戸が開いて、次なるお客が入って来たのに目を向けました。
ロシア人でしょうか?
スカーフを巻いた随分と大柄の老婆が、横のカウンターへと腰を下ろしました。
小説、映画でアレバ、大幅に脂肪の蒸発したる、歳も40年程はさか登らなくてはなりますまい。
腰を下ろすと云うよりも、椅子を床に押し潰すといった表現が正しい程の立派な方と無言で並ぶ破目となりました。
が、期待を裏切らずパリのお好み焼きは、上手な上手な家庭の味でした。
これならクレープもサゾカシ美味いだろうと、今度は娘と二人で訪れて、
娘の残り物を無理して食べる父親の風を演じながら是非にでもと思案している間に、
この異人の女、ギャレット二人前にデザートと称してクレープを平らげ、
私は余りもの驚きに、おもわず其の腹の周りから顔を再び見いってしまったのです。
店を出て、マリリンに詫びながらリードを手にして再び、店を振り返り眺めながら、
ヤッパリ新潟には懐かしい佳い店が在ると、私の新潟贔屓は更に深まったのです。