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考える処

歯科医師と云う仕事柄、

人工物を造ると云う事からは避けられません。

物造りには基本形と云うお手本が必ず在ります。

患者さんの歯の状況は様々なのですが、

それを、

お手本に如何に近づかせることができるかが、

歯科医師の腕の見せ処みたいなものでしょうか?

基本を忠実に取得し、

応用力を拡げ、

お手本に近づかせる。

これが医療行為の基本とも言えましょう。

しかしながら、

悲しいかな、

人工物の定めとして、

完成時が一番綺麗な訳です。

どんなに苦労して造ってみても、

患者さんのお口の中に入った瞬間から、

大きな噛む力なり、

酸アルカリ環境下にて曝され、

食べ物のカスで汚染され、

私の作品は、

日常、叩かれて過ごすのです。

メンテナンスの際など、

久しぶりに再会するわが子を迎える親の気持ちですよ。

何処かに不具合は無いか?

環境と調和していない処は無いか?

ヒヤヒヤしっぱなしです。

人工物と人の身体との調和。

それが私の歯科治療における【考える処】なのです。

知恵

せがれが歯の治療のために帰って来ました。

スタッフの宮田君に、

いつものようにお土産を手渡して、

アレ!晋太郎君、日焼けしたね?

女性は流石。

私ら男には無頓着なことに、

よく気がつくのですね。

オープンカー焼けなんです。

親父の細工を信じてくれているのでしょうね。

所詮は素人の組み立てでしかない玩具ですからね。

で、

治療が終わり夕飯でも食べさせてと思っていたら、

墓の掃除に行き、

明日の朝は授業があるからと言って帰っていったのです。

こ1時間ほど経ったでしょうか?

墓からのせがれからの電話で、

つくづく私は怒らなくなったと実感したのです。

墓の移葬に関しては、

物事の大局から、

熟慮し、

跡を引き継ぐせがれとも十分に相談しながら、

私ら親子は、

誠意をもって、

精一杯させて頂き、

また、

この機会によって、

御先祖さまとの距離が大きく縮まったと

喜んでいたのです。

若いエネルギー溢れるせがれが、

怒り、

呆れ果てる、

所作を見つけたようです。

私とせがれには、

無論、

どなたの為さった所作かは、

観てはおりませんが、

瞬時に判ります。

そりゃ、仏さまの方も、

声には決してなりませんが、

眼前に立つせがれに言いつけるに決まっているじゃないですか。

文字通り、

せがれは墓の掃除に精を出し、

帰ってゆきました。

早朝に私も墓地へと出かけ、

不思議なものですね?

何が在ったのか?

瞬時に悟ったのです。

せがれが綺麗にお祀りして帰った軌跡も判りました。

どなたが何を為したかも判りました。

霊なり、

神様、

仏さま、

カトリックでは聖霊と呼ぶのですが、

人の眼には決して見えませんが、

不思議な力が教えて下さるのです。

以前の私だったら、

どうだったでしょうか?

私も歳54。

歯科医師に憧れた少年も既に初老となりました。

残された時間も多くはありません。

良い歯科医師でいたいから、

技術向上への情熱はモチロン、

穏やかな医師でありたいと思うから、

私は自分の感情を抑える知恵を得たのです。

成長を忘れた人でいないために。

トイ.プードルの赤ちゃん

私の犬好きを知らない患者さんは居られません。

時々、

院長室にて主人を待つ忠犬マリリンを

撫でたり、

ほっぺしたり、

私の患者さんの大勢も犬好きのようです。

で、

昨日、

診療所の階段を上がってくる

ある患者さんのご様子が

いつもとは、

何処かが違うのを感じたのです。

うむ?

小さな籠の中に、

ちっちゃな、ちっちゃなトイプードルの赤ちゃんです。

抱っこさせて貰ったのは云うまでもありません。

お利口さんです。

ご興味の方は、

ブリーダーさんです。

下記にご連絡ください。

じっくりと

私は【仮の総入れ歯】を頻繁に利用します。

仮の総入れ歯を【基準】として、

そこから、

細かな修正箇所を探して、

手直ししてゆきます。

初診で来られた当初は、

プロの私でさえも、

いったいどうなってるの?

と、

訳の判らない奇妙なる治療に

お目にかかる機会が多いのです。

ぐちゃぐちゃになった糸を

丁寧に解どく気の長さが、

歯科治療の一番大切な処です。

この患者さん、お可哀想でしょう?

7

治療中なんですってよ!

何なんですかね!

この仮歯は!

これでインプラントを入れるって無謀な計画だったそうな。

ほうほうの体でお越しになられました。

私は、

まずはお顔の表情を優しく、綺麗にから始めます。

仮の総入れ歯を丁寧に丁寧に、

細かなチェックを繰り返し、

で、

今日、仮の総入れ歯をお造りしたのです。

どうでしょう?

良くなったでしょ?

でも、

まだまだなんですよ。

このご婦人は、

もともとは目鼻立ちのハッキリしたお美しい方ですから。

腕の見せ処です。

お顔や表情を決めませんと、

噛み合わせの位置や高さが決定できません。

となると、

インプラントの歯も決まらないでしょう?

スピード重視の歯科医師の方も

最近では多く観られます。

でも、

大丈夫なのでしょうか?

昼間からバカな話し

女性の患者さんが多いんですが、

どうせなら、

歯を治す序でに、

綺麗になって頂きたいと思いますね。

ですから、

患者さんを余所に、

自然と、

そのように心がけて

患者さんの治療を工夫している自分が居ます。

ご本人に、

歯の治療の際の審美的な

私の細工の工夫は申し上げません。

この辺りは、

私のプロフェッショナルとしての

意地でしょうか?

それとも、

紳士の嗜みでしょうか?

よく好きなタイプの女性は?

と聞かれます。

で、

アレコレ女優さんのお顔を思いだし、

好き勝手申し上げるんですが。

先生、タイプに一貫性がありませんが?

の一言で片付けられてしまうのです。

それぞれのお美しさがあるからでしょう。

役所広司さんと共演する際に

独特の形を

イメージされての演技なのでしょうか?

私は劇中での原田美枝子さんは良いですね。

高橋惠子さんは無条件にOKです。

幼い頃に、

叔父に洋画をよく観せに連れて行って貰いました。

ハリウッドの全盛期だった頃です。

画面に釘付けになったのを覚えています。

その中で、

この女優さんは永遠のマドンナでしょう。

ヤッパリ。

昔、せがれとニューヨークを訪問した際に、

この女優さんは既にお亡くなりになられていました。

生前、

モナコの王妃さまになって居られましたが、

その際のニューヨークでの常宿であったコンドミニアムに

私はミーハーですから、

喜び勇んで宿泊し、

なんとも言えない感動を覚えたものでした。

グレース.ケリーです。

私が患者さんの治療を行う際に、

どうしても、

この方のイメージを重ねて、

何処かにケリースタイルを

秘かに仕込んでいるのです。

仕事の先に患者さんの笑顔があるから

若い歯科医師の先生から、

頻繁に相談をうけます。

私もそのような年齢になったのだと、

しみじみ感じます。

私は歯科医学に真面目に取り組む歯科医師が好きです。

歯科治療をシステマティック化して稼いでやろうと云う

歯科医師は嫌いです。

この辺りは、

私はハッキリしています。

ですから、

私が相談にのるのは、

真面目な歯科医師に対してです。

で、

私が必ず口にする台詞が在ります。

【背伸びして!背伸びしないと成長しないよ】

【採算度外視して、無我夢中でやってごらん】

今でも私は、そうですから。

自費治療ですから、

健康保険の治療の費用と比べられたら、

一言もありません。

が、

患者さんから頂きありがたい治療費用です。

採算度外視した治療で来たことを、

私の家族、スタッフ、会計士、税務署の方は

十分にご承知の筈です。

私は歯科との出会いが無かったならば、

どうなっていたか判りません。

患者さんが笑ってくれるから、

私は厳しい道を歩いて行けるんです。

 

私の歯科治療

朝の一番の患者さんの治療は、

マイクロスコープを使った【根管治療】でした。

上の前歯の治療です。

視え過ぎるのも、

如何なものかと。

だって、

完璧に綺麗な状態にもっていきたいじゃないですか。

MTAセメントにて根管充填で終了です。

今日の症例は1回の治療で最後までもってゆけました。

どなたかが根管治療なさっておられたのですが、

根管の先端部分の神経が残っていたんですね。

死んでミイラ化なっていました。

まだ分解融解していなかったのが幸いだったんです。

根管の壁には、

ビッシリと神経の残骸がこびりついていました。

これも、

マイクロスコープがあるからこそ、

視えるのです。

1時間半ていどで終了したので、

私は体力、気力的には疲れませんでした。

どちらかと云えば、

充実感、

達成感で、

気分爽快といった処です。

私は根管治療は1日に1人だけと決めています。

眼と手先の微妙な加減が、

限界だからです。

呑気な奴だと、

他の歯科医師からの批判を耳にしたことが多々、在りました。

呑気だとは思っていません。

ただ、

治療と云う名の破壊行為だけはしたくありません。

是非に同じ環境で治療してみてください。

恐らく、

1日に1人も出来ないと思います。

私は歯の治療が好きで好きで堪りません。

一生懸命しているのですが、

まだまだ満足できません。

だから少しでも良いコンディション下で、

患者さんと向き合いたいのです。

満足感

昨夜は、

なかなか眠れなく、

ついには、

床から抜け出し、

腰をすえて映画でも観ようと思い立ち、

で、

選んだ作品が【あなたへ】

誰もがご承知の高倉健さん晩年の作品です。

驚きました。

健さん手作りのキャンピングカーですか!

劇中では車上荒らしを演じるビートたけしさんもトラックキャンパーを。

笑っちゃいました。

でも、

エンディングの時に余韻が残る作品って

本当に満足感に浸れますよね。

朝の一番の患者さんは根管治療だったんだですが、

今が12時半ですから、

治療に2時間半ほど費やした訳です。

疲れました。

でも、

私は満足感に浸っているのです。

心の柔軟剤

朝の一番に、

歯周外科手術を執刀し、

張り積めた気持ちが、

院長室に帰っても、

解れていないようでした。

が、

次の患者さんは小臼歯のダイレクトボンディング修復。

大臼歯の金属の詰め物は、

私の仕事ではありません。

その隣の歯が、

ダイレクトボンディング修復にて、

歯の形のほとんどを、

お口のなかで、

仕上げたモノです。

チョコッと、

細い糸が見えますか?

これも治療における私の仕掛けです。

で、

今から研磨します。

輝いた活きた歯が蘇ります。

あ~、楽しませて頂きました。

張り積めた心も

どうやらリラックスできたようですよ。

歯の細工は、

私にとっては心の柔軟剤かもしれませんね。

思いもよらない再会に

診療所の前の菊地寛通りの突き当たりに

【ジュンク堂書店】が出店してからは、

診療が終わった後の楽しみが出来ました。

昔から池袋の【ジュンク堂書店】が好きでした。

ここの店創りに、

個性と自己主張を感じていたからです。

新潟市でも駅前のビルに【ジュンク堂書店】を見つけた時から、

新潟市での余暇の使い方が変わりました。

高松市は四国の田舎街だと。

なぜなら【ジュンク堂書店】が無かったからです。

ですから、

今は高松市も都会になったような気がします。

で、

昨日、

面白いモノと再会したのです。

手に取って、

初版が何時だったか?と。

1969年だとか。

この本を幼い頃に、

産婦人科医の叔父から手渡されたのです。

【絵】が私の幼な心を掴んだのです。

それと、

タイトルと内容が、

チョッピリ背伸びしたような、

大人の、

紳士の、

匂いを感じとったのです。

でなければ、

既に半世紀近く前の記憶など

当てになりませんもの。

大学へ進学するための荷造りの段ボール箱の中の

私にとっての大切な本の中に

この本も入っていた事も鮮明に記憶しています。

内容に心髄した訳ではありません。

なんせ単なるハウツー本でしかありませんから。

が、

私はこの本から放たれる空気が好きでした。

紳士の匂いを感じるからです。

独り暮らしのアパートの書棚に、

この本はずっと同じ位置に居たと思います。

歯科の道に入った私にとっては、

必要な本ではありませんでしたから。

それでも、

高松市へ参ります際の引っ越しの荷物の中には、

確かに、

この本は私と共に。

なぜなら、

産まれたばかりの娘が少し大きくなった時に

娘と一緒に観ようと、

良い絵本のひとつとして考えていたからです。

今は社会人となった娘には、

もしかしたら、

まだ若かった父親の膝の上で、

一緒に眺めた記憶があるかもしれません。

で、

この10数年、

私にとっては怒涛の年月でした。

蔵書の多くも失いました。

その中に、

この本が入っていることも

頭の中に在りました。

ですから、

この本の背表紙が眼中に入った際には

足が停まって、

一瞬、

呼吸も止まったのです。

慌てて、

書棚から引っ張り出して、

頁を開いたのです。

あの本は生きていたのです。

頁の中から、

タンゴやワルツが聴こえてき、

人々が会話を楽しむ空気が放たれてきたのです。

幼い娘たちに贈ろうと。

当時の叔父の表情を思いだし、

つい、

鏡に写った私の顔を観てしまいました。

幼い娘たち。

いつか本物の淑女に育って欲しいものだと。