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責任の重さ

昨夜も診療所に泊まりこんでいました。

日本歯科大学付属病院の総合診療科における

治療のガイドラインの製作中だからです。

大学付属病院には大勢の歯科医師が治療に従事しています。

医師には、

それぞれに裁量権があります。

ただし、

治療における原理・原則は揺るぎないものです。

大勢の歯科医師が行う治療の

大学付属病院としてのガイドラインを

各科長と共同で製作することが、

日本歯科大学の大きな主張となることに

若手医師たちが気づいてくれたからです。

自分たちは、

此処で歯科医学を学んだのだと。

そのくらい、

歯科治療の方法論は

沢山あるのですよ。

歯科医院は何処に行っても同じだなんてことは

全くありません。

総合診療科の医員たちの顔を思い浮かべながら、

多くの参考文献を前に、

暴雨の窓を叩く音をよそに、

ペンを走らせていました。

私の大学時代の姿を知る人は、

今の私を同一人物とは信じません。

そのくらいやんちゃ坊主だったんです。

が、

出逢いが私の人生を一転させて下さったのです。

生涯の師と仰ぐことになる内藤正裕先生を始めとする、

国内外の歯科の巨星たちです。

それほどまで、

歯科医学とは魅力あるものなのかと、

知らぬうちに、

引き摺られるように、

歯科医学に埋没していったように思います。

55歳を前に、

再び人生の転帰点を迎えました。

カトリックとの関わりと、

母校である日本歯科大学付属病院の総合診療科の

臨床教授の任に就いたことです。

もうやんちゃ坊主では済まされなくなりました。

覚悟を決めて、

背負った責任の重さを

日々自覚しながら、

器具を手にしています。

綺麗なひとへ

昨夜、

診療所の後かたづけを終えたら、

もう午後の7時半をとうに回っていました。

帰宅路の途中に在る

桜町カトリック教会の松浦司祭さまからの、

聖書の解釈の個人教授が8時からであったので、

急いで診療所を後にしました。

聖堂のステンドガラス窓から灯りがもれていました。

8時まで10分ほどありましたので、

聖堂の木戸から中へと入りました。

毎週日曜日のミサに訪れているので見馴れた光景ですが、

夜の静寂のなか、

誰一人いない聖堂の正面へと歩み寄りました。

正面には、

十字架に架けられた姿のイエスさま。

聖台に向かって右側の壁の台座にマリンさまの石像。

向かって左側には、私の名前の由来である聖父ヨゼフさまの石像。

人っ子一人いない聖堂で、

私は目の前の聖家族の御像を眺めるのが好きです。

そして、

聖母マリアさまのお顔だちの美しさに

心が安まるのです。

ついさっきまで、

緊張感に包まれた治療を行っていました。

患者さんが私に託して下さる気持ちに責任と感謝を感じて

毎日を過ごしています。

そのような暮らしを経て、

祈ることが大切な務めであることに気づきました。

ですから、

夜、

たびたび教会を独りで訪れます。

それと共に、

患者さんの診察の度ごとに、

聖母マリアさまに祈りを

心内で捧げ、

手先を患者さんに触れるようになりました。

健康でありますように。

そして、

マリンさまのようなお美しいお顔だちが

私の手当てで創れますように。

歯科医師ですから、

当たり前のことなんです。

でも、

祈らずにはいられないのです。

 

 

総合診療の第1歩

やっと、

今年1番の難症例に取りかかりました。

診るも無惨な修復治療によって、

歯も、

歯茎も、

歯槽骨も、

噛み合わせも、

観た目にも、

ボロボロな状況に陥っていました。

初診は2月27日。

県外からの52歳の女性です。

歯科医師の手によって、

大きく崩壊した口腔の治療は、

安易に行うことはできません。

何故?

このような状況に至ったのかという

転帰となった原因を究明することが、

治療を行う上で、

1番大切な、

最初の乗り越えなければならない関所です。

と、

並行しながら、

患者さんに

歯磨きの本式の方法を

シッカリ体得して頂くために、

通って頂くことに。

その期間を利用しながら、

私は思案し、

患者さんの口腔診査の繰り返し。

で、

謎解きができたのです。

今日の治療と相成った訳です。

 

観て下さい。

精密とはほど遠いクラウンと歯の隙間。

腫れた歯茎を、

見事!

患者さんは頑張って、

歯磨きだけで、

ココまで炎症を抑制したのです。

ここからは、

プロの出番です。

一気呵成に、

崩壊の原因である修復物を撤去します。

この歯周病は、

歯科医師の作品です。

この虫歯の進行も、

歯科医師の作品です。

概略の修正を加えて、

仮歯を装着しました。

約10日後に、

歯周外科処置を行います。

その後の、

歯肉が熟成する3カ月程度の間に、

根管治療を行います。

歯周外科の後ですから、

ラバーダム防湿環境下での治療が可能です。

今日の治療は、

朝の10時スタートで、

終わったら、

夕方の5時前でした。

これが三枝デンタルオフィスの流儀です。

 

笑って下さい

不安感や哀しい気持ちで、

押し潰されそうになった時、

眠ることしか術を知らなかった時がありました。

でも、

眠りは、

必ず眼が覚めるもの。

酒を煽って、

酔いに任せて眠ってみても、

眠りは、

必ず眼が覚めるもの。

そんな長い期間を過ごした後に、

眼が覚めた際に、

ある時、

ふと、

気づいたのです。

悩んでも無駄だと。

哀しんでも、

それは未来永劫には続かないのだと。

ただし、

有頂天になるような至上の幸福に満たされた時間も、

そう長くは続かない。

ソレからは、

ズッと前を向いて歩くようになりました。

10年は先の自分の姿を

より良いモノとして、

イメージを膨らませて、

グイグイと、

前へ進むようになりました。

すると、

人と人との関わり合いの

大切さが、

肌で感じるようになりました。

私の診療所へお越しの患者さん。

私の母校の付属病院へお越しの患者さん。

そして、

母校の上司、同僚、後進たち、

そして、

青春期を母校で学ぶ学生諸君。

ちっぽけな歯科医でしかない私ですから、

私の関わり合いのある世界も、

このように、

ちっちゃな世界でしかありません。

正直、

これで良かったのだと、

胸を撫で下ろしています。

これ以上の大勢の人たちと

関わるキャパシティは、

私にはありません。

私は決して名医ではありません。

でも、

歯との【え・に・し】を

大切に大切に、

雛のかえる直前の卵を

掌の中で包みこむように、

歯科医学を、

私の身体の中で温めて、

大切に触れてきたことだけは、

私の家族、別れた家族ともに

否定されることはないと確信しています。

私は人として生きる。

私は歯科医師として生きる。

関わり合いをもつ方々の幸せを願い、

祈りを捧げながら、

前へ進む。

55歳になって、

ヤット重い腰をあげることにしたのです。

今まで浪費した無駄なエネルギー、

今までの経験から蓄えたエネルギー、

これから思案することで生まれるエネルギー、

それを糧として、

歯の番人としてだけ、

進んで行く姿を

笑って下さい。

 

かかりつけ歯科医

もう10年は、

優に越えた頃だったでしょうか。

【かかりつけ歯科医制度】なるものが、

健康保険の治療費用として点数評価された事がありました。

が、

いつの間にか、

ウヤムヤとなり、

点数と共に、

その制度そのものも

消えてなくなりました。

かかりつけ歯科医という関係ですが、

コレは、

国の制度で縛られる類いのモノではないと考えています。

歯科医という個人の人間、

患者さんという個人の人間、

人と人との関わり合いを、

制度で評価し、

ソレを点数表示することに、

私は大いなる違和感を感じていました。

私は長い間、

開業歯科医を生業として過ごしてきました。

20年を越える関わり合いの患者さんも多いのですが、

途中、

来院を中断された方も少なからず居られます。

私はハッキリとモノ言う質です。

私の一言が、

その方のシャクに触った事もあったかと思います。

また、

治療を巡る方針の相違から、

私の診療所を去った方も居られます。

ただ、

興味深いことは、

10年も経てば、

そのような方の大勢が、

私の診療所へと帰って来られるのです。

悲しいのは、

悲惨な状況に至っている共通項が診てとれますこと。

40代の頃は、

正直申し上げて、

だから言わんこっちゃない。

こんなになってから、

どう治せと言うんだよ。

腹立たしい気持ちを抑えて、抑えて、

歯科医という仕事の矛盾だらけを

歯の芸に打ち込むことで

まぎらわせていたのが事実です。

しかし、

ある時に、

ふと、

自分の考え違いに気づいたのです。

最後は、

私を思い出して下さったのだと。

崩壊した口腔は、

昔の私が予想した過程を辿っていました。

私の診断は正しかったのだと。

歯科医の診断は、

将棋や囲碁を指すような類いの処が多数を占めます。

先に先を読んだ者が勝利の栄冠を勝ち取ります。

歯科医は、

それに加えて、

手先の器用さも勝ち負けに影響します。

ですから、

私は患者さんとの会話や治療の手当てを

より丁寧に丁寧にと綴ることに

力を注ぐようになりました。

患者さんの側は素人でらっしゃるから、

私の本意は知りません。

ソレで良いのだと思っています。

患者さんとの何気ない会話から、

医師からの服用中の薬の影響で、

逆の効果が起きていることにきづき、

処方を変えて頂く機会が多々在りますし、

長い間の関わり合いから、

全身疾患を疑い、

他科に検査を依頼し、

大事から免れられ、

患者さんと共に喜びを分かち合った機会も多いのです。

現在の私は、

診療に関して、

物事を難しく考えないようにしています。

目の前の患者さんが、

ズッとお元気で、

美味しく何でも召し上がって頂けるように。

 

変わった空気

やっぱり、

患者さんたちは

気づいていたのです。

ホールの登り階段の手摺から

備え付けの台、

診療椅子の隅々まで

ピカピカ✨に光っているほどに。

お掃除のオバチャンのお陰です。

オバチャンと云っても、

まだ72歳の活き活きしたお綺麗な方です。

私が若い時分からの患者さんでした。

御商売をお閉めになり、

6歳年長の御亭主と、

お子さんに恵まれなかったので、

お二人で仲睦まじく過ごされていたのです。

が、

数年前、

オバチャンを病魔が襲いました。

何度か手術を受け、

スッカリ、

オバチャンは意気消沈したのです。

メンテナンスの期間を短くして、

口腔のクリーニングはそこそこに、

オバチャンの不安な気持ちを聴く、

オバチャンの体調を聴く、

オバチャンの食事の内容を聴く。

それに徹したのです。

2年ほどは、

同じような状況だったと思います。

で、

コレでは、

オバチャンは鬱になると判断した私は、

オバチャンに診療所のお掃除人を依頼したのです。

オバチャンは私の患者さんですから、

私の診療所の方針は既に20年も経験済みの玄人です。

全てが患者さんのために。

明るくなられましたよ。

人は誰かのためにお役にたつ事を自覚すれば強くなる。

そんな言葉を思い出しました。

最近、お越しになられた患者さんとの会話には、

横耳はさんだ私は吹き出しそうになります。

先生は忙しいんですよ。

いつも診療の合間で誰それからお電話でね。

難しい治療の方ばかりの合間ですからね。

ご飯も召し上がれないんですよ。

年とられて丸くなられたんですよ。

いえいえ、

私なんか今でも先生のことは

恐いですもの。

昔なんか、ソレはソレは。

でも、

患者さんが多いんです。

ハッキリモノを仰いますけど、

困った患者さんには、

ソレはソレは親身に手当てされますから。

アレは恐いんではないんですよ。

ヤッパリ仕事の内容なんでしょうか?

緊張してピリピリされてるんです。

廊下の陰で、

オバチャンの話しを聞くに、

あぁ、女性の口ってのは、

でも、

私は女性の歯の治療がほとんどなんですね。

スタッフも代わり、

随分と雰囲気も変わりました。

しかし、

私はピリピリしてるんでしょうか。

心外だなぁ。

自分では随分と無理して丸く演じてるんです。

歯の声

何だかお判りになりますか?

石膏で彫刻した、

人の上顎第1大臼歯の模型です。

ナンだ?

そうナンだって処でしょうね!

でもね、

この第1大臼歯と

お隣の第2大臼歯とでは、

微妙に形が違うのですよ。

歯それぞれに

形態的な特徴と違いが在るんです。

そして、

ソレが、

その歯の独自の自己主張なんです。

私が治療に際して、

【歯の声】を聞き漏らさないようによ、

心を清んだ状態にするのは、

そういうことナンです。

歯のナンと!美しい形を具備していることか。

無計画・未熟なインプラント治療の結末を

初診からの治療行程を

治療のステップ・ステップ毎に

ブログにてご紹介させて頂きました

あの御婦人の治療も、

ヤット、

終末が見えてきたようです。

アリャ~!

ヤッてくれました!

って云うインプラント修復でした。

観た眼にも痛々しいですが、

粘膜部分にインプラントの開放部分が在るので、

唇を動かす度に、

痛いんですよ。

もちろん、

インプラントは撤去します。

骨も粘膜部分もボロボロ状態。

ここから、

粘膜部分の整形手術や骨の増大手術を。

本当にお気の毒でした。

で、ナンとか此処までに。

もう少し、

クラウン・ブリッジの歯茎部分の形態を

手直しすれば、

ナンとかなるでしょう!

具体的には、

歯の無い部分の似せの歯の歯頸部分を

チョコッと、

短く、

ゆったりカーブに修正して、

もう少し奥への膨らみを持たせる。

こういう処を、

アップした写真で再チェックします!

最後の頑張りですね。

でも、

自然な表情をされた際には、

ねっ!

艶っぽいでしょ?

患者さんへの尊敬の念

総合診療科の臨床教授の仕事の1つに、

月に1度、

総医局員と臨床研修医たちに対して講義しなきゃならないんですが、

これが実にヤリ難いんです。

年齢層からキャリアを含め、

幅が広すぎるモノですから。

で、

講義で使うスライド写真は、

当然、

私の患者さんへの治療なんですが。

そう考えますと、

私は自分の患者さんみんなに対して

大きなプライドを持って、

尊敬の念を抱いています。

だって、

私の患者さんは歯科医学への関心度が非常に高く、

口腔環境もバッチリ維持されておられます。

患者さんに支えられて、

私は治療の根拠を持っている訳ですから。

その感謝の念が、

また私のエネルギー源になっていることに

間違いないでしょう。

 

寝てばかり

場所柄、

診療所が街の中心部に在りますことから、

帰宅する車中から、

正に、

いざ!

飲みに行くぞ!

そんな光景が眼に入ります。

ソレが、

若者たちであったり、

サラリーマン集団であったり。

で、

当の私は、

信号機が青に変わった瞬間に、

再び家路へと急ぎます。

私は犬の待っている家が好きです。

ただし、

このごろは、

暇さえ在れば、

ひたすら寝ています。

とにかく、

寝て、寝て、寝ての毎日です。

ソレは、

現在私の脳髄が、

新しいこと始めようと、

知識の仕込みは全て終了し、

後は、

アクションのプロセスについて

考えに考えているからです。

新しいことといっても、

もちろん、

歯科治療の技術的方法に関してですよ。

寝ても覚めても歯科。

患者さんが待って下さっていますから。