朝の一番に来られた患者さんが
私の顔を観るなり
泪が頬をつたわったので、
私としては
驚きを隠せず
この様な日頃優しげな
人生経験豊かなる時間を
過ごされたる女性を
泣かせる訳を
問い掛けたのである。
他人の噂、中傷が
泪の訳で在った。
この様な場合は
とやかく慰める事よりも
黙って聴いて差し上げるのが
良い事を
私は自信の経験より
熟知している。
他人から耳にする
他人の話等と云うものは
大概が、
根も葉も無いもので、
私等は
むしろ他人の噂話を
してくる人の方を
愚かなるかなと
憐れみを感じつつ
顔を見つめている。
一度きりの人生である。
其の三分の一は
確実に睡眠に採られて仕舞うので
神さまから
与えられた時間は
とてつもなく短いのである。
別に持って
あの世へと行ける訳では無いが
人間としての
品格と奥行きを
持たせる事に
私は過ごしたいと
思っている。
他人からの
陰口などは
私の様な自営業者は
辞めて貰った従業員からは
何を云われていることやらと、
ではあるが、
逸れでも
命よりも大切な
歯の仕事である。
腐り物は
矢張、
早々に捨て去らねばならない。
この様な腐り物を
ありがたく迎え入れる処は
此れは此で
同類同士の群れ造りであるから
私とは
違った水を飲んで育った人と
今後の関係を断ち切れば良いだけの
話と
私は割りきっている。
此の患者さんであるが
帰られる際には
頬の緊張も
すっかりと採れて
それでは先生、また来月にと、
診療所を後にされたのである。