友人からの便り


大学時代の友人から電話がありました。

この友人は一度結婚に失敗して、二人の子供を先方に引き取られた数年の後に再婚しました。

六歳ほど年下の女性ですが、この女性との間には子供は授からず、今は犬と猫を飼って
幸せに過ごして居ると、私も友人として安堵していました。

ー 俺は何のために生きてるんだろう? ー

イキナリの台詞に言葉を失いました。

傍目には何不自由ない恵まれた開業医に見えるのかもしれません。

私は友人の心の底にある叫びに近い声がよく理解出来ます。

友人は、とても真面目な歯科医です。
その辺に転がっている歯科医とは比べ物にならない位に真面目な歯科医です。

ですから生活全般に渡って、真面目なんだと容易に想像がつきます。

こう言うのは、女性なんかからしてみれば、男の更年期、或いはチョッと鬱傾向と受けとるに違いありません。

が、得てして男とはこう言うもんです。

真面目に仕事に向かい合っていると、身体も心も疲れます。
休息しても休息にならない疲労もあるのです。

私としてみれば、ただ友人の心の汚泥を聞いてあげることしか出来ないのですが、
内心では、みんな同じなんだと安堵する自分が居ました。

私はどちらかと云えば、小説よりも随筆を好みます。
で、女性の書いたものは余り好みません。
好まないと云うよりも、よく判りません。

感覚的に男は、女性とは当然ですが、全く別の生き物で在ると認識しています。

長い電話でしたが、最後に私の口から出た台詞は、
みんな一緒であること、こんな本を読んでみてはどうだろう位なものでした。

軽薄短小な時代に、このような真面目な人は暮らしにくくなったのだと思います。

テレビを観ても、凡そ芸とはほど遠いお笑いや、バラエティ番組ばかり。
ニュースをつけても、ひとつの事件をみんな総出で叩くのみ。
政治家を観ても、みんなか自分か判らぬ内輪の喧嘩と、アッチとくっつきコッチと妥協でくっついての茶番劇。

いよいよ以て、程度の低さを競いあっているのかしらんと疑いたくなる程に、
この友人の憂いは、誠に純真無垢なる精神と、この友人の心とは違って安堵したる私でした。