魂を注入


長いことお待たせしました。

総入れ歯、出来ましたよ。

と、70代後半の女性患者さんに申し上げました処、

私の掌の上の出来立ての総入れ歯を手に取り、

即座に口の中へと入れるその方へ、

慌てて、

まだダメですよ!

調整しないとシッカリとは噛めません!

と、制止する私。

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へぇ~!そうなんですか!

と、不思議がるその方。

ほんの微調整ですが、

何回か口の中と私の掌を往復した総入れ歯に、

最後に、

ググッ!と、

気合いをいれて一瞬!

他人目には

チョコッとだけに見えるでしょう、

一削除。

この時、

総入れ歯の中に、

私は魂を注入します。

で、

総入れ歯は患者さんの口の中へ。

どうですか?

痛くないですか?

眼の玉を上向きにしながら思案顔で

ゴソゴソ試し噛みする患者さん。

出た~!

亀田製菓の柿の種。

召し上がってみて下さい。

良いんですか?

ピーナッツなんか良いでしょうか?

私はニコニコして頷くだけです。

合格のようです。

また出た~!

新潟瑞花の煎餅。

本当に?

バリッバリッバリッ!

今日は此処までにしておきましょう。

では1週後にお越し下さいね。

会釈し患者さんを後にする私を呼び止めるその方が、

先生はお酒はお召し上がりになられる?

と。

酒は嗜む程度ですが。

私へのご配慮は無用です。

その代わりと言っちゃなんですが、

どうか大切に入れ歯をお使い下さい。