昔の匂い


 久方ぶりに
大阪から神戸へと足を延ばした。

 台風の後先にて
通りの落葉が石畳に張りついて
ともすれば
足元が危ない坂道であった。

 北野坂を上り
山本通りを
もう少しの処に在る
赤テントの
カフェ.ド.パリのテラスへ
腰をおろしたマリリンと私である。

 肌に冷たい海からの風に
昔の様に
熱いカフェオレとでもいきたかったが、
生憎、最近珈琲を辞めた私は
酸味の利いた紅茶を啜った。

 幼い頃より
馴染みの在る風景も
震災の後は
随分と
近代的な味気ないものに
変わっていくが、
此の辺りだけは
当の私だけが
年老いていくだけで
鼻腔に入り込む
街の匂いも
以前のままである。

 慌ただしい日常を
忘れさせてくれた
至福の一時であった。