血と肉


6年前の今頃の私は、

エベレストの山頂からスキーで滑走する心持ちで、

日本海側から太平洋側を大きく遮る雪の連邦のなかの

雪と氷だけに包まれた小径を、

ひたすら仙台目指して、

車のハンドルに掴まっていたと云う表現が

適切だと思う状況下に在りました。

国道、県道、高速道路が当たり前という毎日の普遍が、

一挙に崩れ落ちた瞬間でした。

道なき処を、

ひたすら進むと云う状況の異常さも、

恐怖を通り越して、

無心で進むと云う経験を味わいました。

ただただ、息子の名前を繰り返して繰り返して、

それだけで当地へと向かった記憶は未だに鮮明です。

今日も、

時計の針を眺める度に、

胸が傷むのです。

このような想いを、

毎年この季節を迎える度に味わい続けるのでしょう。

あの日から、

私は完全に変わったと自覚しています。

歯の仕事に一生を捧げることを、

単に口からの台詞ではなく、

私自身の血と肉になったと感じたのです。