娘よ。


 大学卒業を間近に控えた娘は、
就職難の此の時代に
所謂、安定した企業に
勤める事が内定し
大学時代最後の夏休みは
終止アメリカを
満喫した様であった。

 が、ここに来て
心のなかに
引っ掛かる何かが
芽生えた様である。

 周囲が狼狽えるなか、
何故か私は安堵したのである。

【お前の撰んだ道は
舗装されたアスファルトで
固められた道である。
将来、自分の歩いた後を振り返っても
足跡はのこってはいない。
父さんは砂浜を歩いてきた様なもんだ。
しんどかった
不安やった。
でも、
足跡を
お前たちは
観れるだろ?】

 就職を報告してきた娘に
返した台詞である。

 非常識な親と思うかもしれない。

 が、私は人の一生と云うものは
一度きりのものであるから
他人目など気にせずに
風の様に
走り抜けたいと
思っている。

 親にとって
子は宝である。
子は命である。

 私は娘が
今、立ち止まり
方向転換するを
責める気持ちなど
更々無いのである。

 娘よ。
お前も父の子である。
道なき処を
歩くが良い。
若い時分は
急な坂を
駆け上がれ。
しないで後悔するよりも
失敗から
学ぶが良い。
其は
早稲田の創始者
大隈公の遺した言葉にも
在る様に。