仕事への向き合い方


若い頃から診療の記録をカメラで撮影して保存しています。

治癒の最中には必死で症例に挑んでベストを尽くした積もりでも、

画像となった自分の仕事を日を改めて客観視すると、

アレヤコレヤと多くの反省点が観えてきます。

私の仕事の特性として、模範的な見本のようなゴールがあり

治癒の最終形を如何にそれに近づけられるかが、医者の腕の観せどころとなります。

楽器の演奏やゴルフ等のスポーツの類いと似た処があります。

私のメスさばきや、歯の削り方にも、ある種の癖があります。

この癖が良い方に向かうこともありますし、それが所謂、私の個性ということになりますが、

悪い方に向かえば、これは私の欠点ですから、絶対に治さねばならない訳です。

メスの角度や、縫う時の糸の引っ張り程度などが、特に微妙なアヤを必要とします。

野球で云う処のバッティングフォームやピッチングフォームの乱れのようなモノです。

毎日、毎日を同じ仕事の繰り返しなのですが、

どうしても気がつかない内に、癖が顔を出します。

あぁ、悪い癖が出てきたな!と、自覚できるように、

自分の仕事をカメラで撮影して、後程に再確認しながら、

苦い気持ちになったり、

縫う時に使う糸は、最近ではナイロン製が主流ですが、

私は敢えて、キレやすいシルクの糸を使っています。

縫う時に、粘膜に強い引っ張る力が加わると、治癒した後に、

上手い形にならず、後味の悪い想いをします。

ですから、手術の最後の摘めとしての縫合に際して、

確りと、でも強すぎずの感覚で一糸、一糸、丁寧に縫い合わせていきます。

その際に、プツンと糸がキレたら力の入り過ぎと、糸の方が私に知らせてくれる訳です。

このような年月を過ごしてきたせいか、私は他人より神経質に観られます。

実際の性格は、大雑把でいい加減に生まれてきたのでしょうが、

歯科の仕事に魅せられて、無我夢中の歳月を過ごした副産物として

毎日を決まった流れで過ごすようになったのだと思います。

私はこの20年近くの間、実際の処、健康保険の効かない治療ばかりしてきました。

インプラント治療、審美歯科治療、残すことが難しい歯の保存治療ばかりでした。

簡単に虫歯を詰めて!などのといった患者さんは居らず、

歯科の難症例ばかりが、なぜか私の診療所へと集まってきました。

張り積めた日々だったと思います。

振り返れば、余裕など無縁でありました。

毎日を流れ作業のように、多くの患者さんの診察をなさって居られる保険治療が大半の先生方を、

それはそれで意義ある仕事と尊敬していますが、

同じ歯科医であっても、私らの基準値とは、あるいは日常の過ごしようは、

まったく異なっていることも、長い年月を通じて認識しました。

今は朝の4時を回った処です。

今日も、明日も手術の予定です。

既に外は、鳥の囀りが煩いほどに響いています。

今日も1日、確りと、丁寧な手当てを尽くしたいと思います。