不肖の弟子


先日、初診にてお越しになられた患者さんのインプラントの上部構造とアバットメントを取り外して

私は、凍りついてしまいました。

この訳は後程お話しさせて頂くとして、

この患者さんは、手術後の頬と唇の痺れと頭痛、そして口の中の不潔感を強く訴えかけて

私の診療所へ訪ねて来られました。

インプラントの手術は、今からさかのぼること2年前に受けられたようです。

左の下顎の奥歯の部分に3本のインプラントが埋め込まれていました。

早速にレントゲンを撮影しました。

ー 先生、この先生から紹介されて公立病院の口腔外科に行ったんですが、
  レントゲンでインプラントと神経は離れているからと言われました。 ー

この患者さんの手術は静脈内鎮静法にて行われたようです。

手術時に、激痛があったとの事。

手術時間はなんと7時間も要した事。

術後から唇と下顎部分の皮膚に麻痺があること。

上部構造を装着してからこめかみから頭にかけて痛いこと。

患者さんには、この原因と解決案を2つに分けて考えるようにお話ししました。

レントゲンでインプラントが神経と離れていても、ドリルで深くまで堀こんでしまったら、
ドリルの先端が神経に触って麻痺は生じ得ること。

術中に痛みを強く感じたのは、ドリル時の神経との接触であると考えられること。

たかがこの程度の手術で7時間も時間を要したのは、

このトラブルに対する対応と、

3本のインプラントの内の真ん中のインプラントが、他のインプラントよりも細くて、

しかも歪んで埋め込まれているので、骨の幅の狭い所へドリリングした際に、

骨の硬い部分に導かれて堀こんでいったので、

骨の形が崩れて、インプラントを入れた後にバイオス等の骨補填材料を使って、

大幅に時間がかかったのだろうと思われること。

ー そうです、先生、バイオスを使ったと言ってました。 ー

頭痛の原因は、いたってシンプルであり、冠の形を変えれば治るとお伝えしたのです。

お気の毒ですが、麻痺は当分の間は治らないだろうとも付け加えました。

この患者さんは、この歯科医師を医療紛争で訴えると息巻いていましたが、

そのようなことをしても、患者さんの傷は治らないのだから

もう振り返らないで前を向いていきましょうとなだめておきました。

ここで問題なのは、この歯科医師が患者さんに対して逃げの姿勢を採ったことです。

で、自分では患者さんに認めたくは無かったんでしょう。

この態度に患者さんは怒りを爆発させたようです。

麻痺に対しては、当分の間は治らないとお話ししましたが、

対応策はありますので、私と患者さんとの間に信頼関係が築けた時に提案しようと思っています。

で、私が凍りついて訳ですが、

アバットメントを外さないと、正確なインプラントの埋め込んだ位置が判らないので、

患者さの了解を得て、アバットメント取り外したときに、

ビックリ仰天したのです。

インプラントの埋め込んだ位置が変なのは容易に予想出来たのですが、

そのアバットメントを作った歯科技工士が、

私の診療所の卒業生であることが判ったからです。

名前なアバットメントに書いている筈もありませんが、

そのタッチで、私が技工を教えたのですから判ります!

が、私はこのような理論と形は教えませんでしたが、

そのタッチは、うちの卒業生である事は間違いありません。

大手の技工所の営業マンに電話をして問い合わせた処、

やはりこの歯科医院の技工はうちの卒業生が行っているようでした。

私は、自身の仕事は細かくチェックしています。

但し、この事で歯科技工士が自分で考えることを学なばなかったのでしょう。

しかしここまで、基本からかけ離れた仕事をしているとは思いませんでした。

スタッフ教育の有り様を大きく考えさせられました。

こういうことも私は、患者さんにはハッキリと伝えるようにしています。

アバットメントを取り外して、患者さんの不潔感が消失したのは言うまでもありません。

この患者さんの不快症状が消えて、歯科への信頼が回復するのは時間の問題でしょう。

この歯科医師を訴えると息巻くこの患者さんへの最後の一言は、

この先生に委せた観る目の無かったことが大きな原因です。

もう振り返らないで前を向いていきましょう。