池波正太郎展


 最近は歳をとった為か
上京するのが億劫になった。

 其れでも、
仕事で否応なく
出向いて行く時は、
夕刻、
並木通りの独り歩きと
贔屓の料理屋で
冷や酒一合位に控え目にしての
料理と店の主人の仕事姿を
眺める方に
重きをおくようになった。

 週刊紙等は
殆ど目を通す事の無い私であるが、
今朝がた、久し振りに
近くの喫茶へと
モーニングの朝食を採りに行った際に、
開いた雑誌の見出しに
思わず手を止めた私である。

 【池波正太郎展 9月9日迄 銀座 松屋】

ー 仕舞った! 知らなかった! ー

 私は池波正太郎氏の著作の殆どを
所有している。
自慢ついでに
私は氏の著作の大半は
其の台詞も諳じている。

 が、其れでも
気の向くままに
書庫に整然と列べた氏の著作を
手にして、
何度となく読み込まれた
其の著作を
床に寝そべり
再び、其の世界へと
旅をする。

 思うに、
歳を重ねる度に
医者や歯医者との
交際の輪が拡がったのだが、
私のなかで
尊敬に値する歯科医は
麻布の内藤正弘先生、
東大阪の本多正明先生、
新大阪の伊藤雄策先生位である。

 皆、歳をとってしまったが
間違いなく
本当の歯医者である。

 医師については
此処では多くを語れないが
保険制度の中で
育って来られた専門職と
欧米の医師を
比較するのは酷であろう。

 国の統制の中で食える
職業程に
恵まれたものはない。

 其の様な居心地の良い環境下では
人間は
全力投球は出来ないものである。

 池波正太郎氏の言葉に
【仕事は独りでするもの】
至極、最もな話であるが、
恐らく、
我が国に於いて
健康保険制度が壊れたならば
独りで食べていける仕事をしている
医師、歯科医師は
殆どを居ないのが
現状であろう。

 昨日、新たに取り引きに訪れた
歯科材料会社の営業マンが
緊張した面持ちで
自費診療のみで
田舎で食ってきた私を
周囲の同業が
羨んでいる等なり、
診療所の趣に
頻りと感心していたが、
実際は
其ほど甘いものではない。

 私はスタッフは勿論の事、
歯科機材、歯科材料から
メーカーの体質、人間、
果ては
来られる患者さんについても
吟味して
今にある。

 変人、変わり者、
挙げ句の果ては
歯のキチガイ呼ばわりされる事
ままあれど
私は歯の世界で
伸び伸びと
楽しんでいる。

 やはり、今週の何処かで
日帰りで
銀座の松屋へと
出掛ける決心がついた。