接着歯学 VS 従来型歯科治療


 虫歯になった際に、
罹患した歯質のみを除去し
歯質接着剤を利用して
最小限の侵襲でもって
歯の修復を行えるのが
接着歯学の最大の利点である。

 此の考え方は
新しいものでは無く、
1955年にブーノコア博士の研究を
端としたものである。

 この際に博士は
歯のエナメル質に対して
85%のリン酸水溶液を用いて
エッチング処理を行い
有機複合材料を歯との
接着をはかったのである。

 現在、リン酸水溶液の濃度は
おおよそ35%程度の濃さに落ち着いている。

 歯に対する接着と云うテーマは
歯科保存学の守備範囲である。

 私の専門は歯科保存学である。
であるから、
私の研究論文には
接着関係のものも多い。

 が、私はレイモンド.キム先生から
臨床歯学の基礎を学んだ
レイモンド.キム.ファミリーの一人でもある。

 キム先生から、
決して新しいものを否定する事はないが、
新しいものに頼らずとも
確かな治療成績が獲られる
確実な手法を身に付けろと
学んだ者である。

 一見、
接着歯学と従来型歯科治療の間に
矛盾があると
思われるかもしれぬ。

 が、其れは
いたって未熟な考え方である。

 接着歯学も
歯科保存学の範疇にある事を
鑑みれば、
より歯組織に優しい手当てで
治療に応用出来るからである。

 私はリン酸水溶液等は
エナメル質に対してしか
使う事はない。
歯のコラーゲン繊維を
こっぴどく迄に傷める
暴挙は、
歯科保存学を学んだ学徒には
到底、出来ないのである。

 歯科医師は
科学者であるべきである。

 様々な水溶液による
歯の処理は、
歯の治療の全ての過程に於いて
必須な下仕事である。

 此の辺りの配慮と
大きな視点にたった診療とは
意味が違う事に
気付くべきである。

 過った手当ては
かけがえのない歯に対して、
小さな親切、大きなお世話に
なるであろう。