大学附属病院の長い廊下を歩く際に、
学生諸君は横に避けて頭を垂れて私が過ぎ去るのを待ってくれます。
また、
校門に差し掛かったる私の姿に
駆け寄って荷物を代わりに持ち、
医局まで先導してくれる学生諸君です。
しかし、
当の私は吹き出しそうな想いを堪えて我慢しています。
私は、そのようなタイプの人間ではありません。
ハチャメチャな学生時代を素直な気持ちで過ごしていました。
先のスキーの名手であったK君から両手を合わされて懇願され、
先導してピンク映画館へと指導した話題を
同級生から何かの拍子に思い出されたのです。
成績優秀なるK君は映画のストーリー展開には全く興味を示さず、
俳優たちの熱い演技を余所に、
映画の灯りにて参考書を読むと云う塩梅に、
大いに憤慨したのですが、
こと大切なピンク映画の肝心な場面に於いては、
キチンと参考書を閉じ、
画面を凝視する姿に、
ヤるべき時にはキチンとヤるもんだと、
大いに評価した話しで盛り上がったのです。
私らの時代はこういうのが普通であったと思います。
それが今の学生諸君は、
本当に真面目であり、
思わず頭を垂れて、
立場が逆だなと。
ですから、
勉強に本気で向きあったのは、
大学3年の後期からと云う
いささかスイッチが入るのが遅かった私ですが、
齢50を半ばになるまで
続いているのですから、
どうぞ昔の事はお許し頂きたいと願っています。
当時を知る人は、
私を恐れて後退り、
あるいは、
まぁ、何処でお代わりになられたのすか?
と、
妙な敬語にて問う始末。
人生とは摩訶不思議なモノですね。