大学1年の冬に、
無理やりのスキー合宿と云う体育のカリキュラムがあり、
遥か妙高高原へと出向かされ、
そればかりでなく、
大いにプライドが傷ついたのです。
ああいうシチュエーションにおいては、
ゲレンデを颯爽と滑走する輩がモテるモノであることを
否応でも思い知らされたのです。
同級生の、
どう観ても男前とは言えないK君はスキーの名手であることが判り、
凄まじい雪飛沫を挙げつつゲレンデに立ち、
歯茎を大いに観せながら笑う自信気な彼が、
夕食後に女学生たちからスキーの指導を請われるのにも拘わらず、
我々雪に縁のない処で育った者たちは、
スーパー初級コースと名付けられた
八甲田山雪の死の走行のような様に
情けない想いを味わった1週間だったのです。
で、
俄然、負けん気魂に火がついた私は、
当時は厳しいことで有名であった新潟県浦佐の恐怖のスキー合宿へと
自ら志願して参加し、
モテたいが為の不謹慎な動機には勝てず、
死の滑走に挑んだのです。
若い時分には、
こういう動機つけが大切だと、
今の若い人が草食などと言われているのが不思議でなりません。
自動車にしても、
モテる為の必須の道具であり、
親や叔父を騙しては、
車はピニンファリーナに限る等と講釈を垂れ、
ベローチェやアバルトのキーを指に引っかけ振りつつ、
場面、場面に於いては、
診療中の叔父のキーを拝借して、
似合いもしないダイムラーダブルシックスを乗り回し、
また或る時には、
コラ!尚登!待て!
と、院長室の窓からの叔父に手を振りつつ、
当時としては珍しかったM6のエンジンの爆音を響かせていた、
放蕩息子降りを発揮した歯科大生時代であったのです。
ですから、
エコカーなどと言われてもピンと来ないのは、
今でも変わりありません。
男は大排気量のガソリンエンジンを焚いて焚いて走るものだと。
独り息子に、
私の遺伝子は確実に遺伝したようです。
ですから、
世間体からしてみれば、
私は馬鹿な父親であろうとナジラレても、
いつかは華が開花するであろうと信じて、
否、
云う資格がないことを自覚していると云うのが
正直な処でしょう。
エンジンオイル云々大いに語る息子の姿を
黙って聞いて夜が更けていくのです。