思い出・というよりは・傷


チョッと、

一息ついて・院長室に戻って、

壁掛けの時計・の時刻を見ると、

午後の4時前です。

そういえば、

9年前、

剥き出しになり、

割れ、

反り返った道路のアスファルトを、

走り、

ジャンプし、

脇を・這うようにし、

東北大学付属病院の中央入口を目指して・いました。

自動車は、

途中で、道路脇に・乗り捨てました。

土地勘のない地域。

グーグルマップなんて、

当時は・今日ほど進化していません。

ぶら下がり・落ちかけの標識を頼りに、

凍てつく大気の中を・探し回って・いました。

午後の4時キッカリに、

人混みに混じって、

愚息の姿を・見つけました。

宮城県へ行く折りに下げ渡した、

私のお気に入りであったダンヒルの革ジャン姿の

愚息を・見つけたのです。

会話する間もなく、

置いた自動車まで・ひたすら走り、

さぁ・新潟へ・帰ろうと、

ハンドルをターンさせたのです。

暗くなった峠で、

通行止めに・遭遇しては、

道を変え、

で、また・通行止め、

道を変えて・また通行止め、

の・繰り返し。

真夜中に・やっと山形市へと・たどり着いたのです。

宿をお願いして、

ベッドに座り込みました。

記憶では・風呂は沸かせなったと思います。

冷え切った身体でしたが、

愚息は・外で2夜を・過ごしたようでした。

何人かの人と・肩を寄せ合って、

暖をとっての・夜を・過ごしたようでした。

私のメールは・届いたのです。

周囲の大人たちは、

四国のお父さんが・来られる筈がないと・

口々に言い聞かせ、

ジッと・するようにと。

普段から、

頑固で、

言い出したら・聞かない父親を、

彼は・誰よりも・知っています。

父ちゃんは飛行機事故に遭っても、

瓦礫から出てきそうやな・

ソレが・愚息の父親に対する・見方ナンです。

壊れた街を、

彼も、

約束の場所を・目指したそうな。

山形市の宿では、

自動販売機のアーモンドが1袋のみ。

空腹では・ありましたが、

やっと・私は眠ることが・できました。

翌朝、

ドトールコーヒーが、

炊き出しを・していました。

ジャムを薄く塗ったトーストと、

薄いホット・コーヒーしか・ありませんが・という、

店の主人に、

何度も・何度も・手を握り、

御礼を繰り返す私たち。

凄まじい・雪一色。

転がるように、

新潟との県境まで・たどり着いた時には、

とっくに日は暮れていました。

車の中の愚息は、

終始・無言です。

私も、

要らぬ事は・言いませんし・聞きません。

真っ暗な中、

新潟市のシンボルである萬代橋が視界に入った時の

嬉しさ、

ホッとした・安堵感は忘れません。